2017-10

いつも片隅にいた

NHKが「トットチャンネル」をまとめて再放送したのを録画して、
眠れない夜なんかに少しずつ見ています。

有名人を演じる俳優さんがよく似ていたり似てなかったり。
確かに中村獅童は渥美清と同じ系統の顔だねえと納得したり。
永六輔はちょっと無理があるなあと思ったり。
ほんの一瞬「ステージ101」の収録風景が出てきて喜んだり。
まあ、いろいろあるわけですが、
そんな中に「あ」と思う場面がありました。

黒柳徹子などの「テレビ俳優」たちが集まる中華料理店の片隅の席で、
いつも原稿用紙にペンを走らせている女性がいる、
若い頃の向田邦子です。演じてるのはミムラ。

とても面白い短編小説を書く向田邦子の駆け出し時代の姿を見て、
おこがましいけど、自分の20代の頃を思い出しました。
出版業界に入ったばかりの20代の日々、駆け出しのライターだった僕は、
いつも新宿の某喫茶店で原稿を書いていました。
その頃のことが懐かしくよみがえります。

今はもう存在しないその大きな喫茶店に行くと、
いつも必ずライター仲間が何人かいて、原稿を書いていました。
ワープロが出現するかしないかくらいの時期、
出版社のネームの入った原稿用紙のマス目をひとつずつ埋めていくのが、
僕たちの仕事でした。まさに、向田邦子のように。

ほかのライター仲間の仕事を気にしながら自分の仕事を進める、
コーヒーを何杯もお代わりしながら。それはとても地道な作業でした。
いろんな雑誌に雑文を書いたり、映画やビデオについて書くのが、
僕たちのおもな仕事でした。

そんな仕事をしながら、ある仲間は映画の脚本家を目指し
ある仲間はテレビのシナリオライターを目指し、
そして僕は小説家を目指していました。
あの頃は、物書きを目指す人はみんな喫茶店で原稿を書いていた、
そんな気がします。いや、まあ、それは言い過ぎだけど。

夢を実現したやつもいます、今どこで何してるかわからないやつもいます。
ぼくはそんな中でライター仕事をけっこう長くやったほうじゃないかな。
今でも原稿仕事を細々と続けているし。

今思うとちょっと不思議なのだけど、
ぼくの原稿は案外と読者へのサービス精神にあふれていました。
読みやすく、「人のいい原稿だ」と言われました。
知らない人から「あなたの原稿、いつも楽しみに読んでます」とよく言われたし、
信じられない話ですが、何年か後に出会った若いライターに、
「今村さんのような文章の書けるライターになりたいと思っていました」
と言われたこともあります。奇特な人もいるものです。

でも確かに僕は、いつも読む人が楽しめて面白がる文章を書きたい、
そう思っていました。原稿は読者のためのものだと信じていました。

よく考えてみれば、それは今もどこかに生き続けている気がします。
芝居の脚本を書くときも、いや、芝居そのものを作るとき、
「それはあくまでも観客ものだ」と信じています。
観客を幸福にしなければ芝居を作る意味はない。
その思いは、今に始まったのではなく、
ライターを始めた頃からずっと体にしみついている精神です。

観客の視線を忘れてはならない、
観客に満足して帰って欲しい、
それが僕の芝居の原点かも知れません。

「トットチャンネル」の向田邦子の姿を見ながら、
「書くことは、自分のためではなく、人のためにやる行為なんだ」と
あらためて思ったりしました。

まだ若くして飛行機事故で亡くなった向田邦子の小説は、
たまに読み返します。不思議な視点を持った小説です。
ああ、ここにもサービス精神があふれてる、と思います。

そして、飛躍するようですが、
ぼくはこれからも、観客のために芝居を作ろうと
ひそかに思ったりするのです。








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