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2019-02

「頭が悪いから」という身勝手で無意味な基準のこと

正月明けが締切りの原稿仕事があるのに、しかも2本、
正月というのは何故これほど仕事から逃れたくなるのでしょうか?
いいからやれ。さっさとやれ。今朝はそんな天の声で起きました。

このところ勢いよく本をビュンビュン読むようにしているのですが、
よかった本をここに書き留めておきたいと思いつつ、
先日、部屋の中を掃除したときにいろんな本がちりじりバラバラになり、
なんかすごく大切な本を忘れたような気がしています。

そんな中で、姫野カオルコ『彼女は頭が悪いから』のこと書きます。
2年ほど前の、東大生たちが女子大生に集団ワイセツ行為をして捕まった事件。
あれをモチーフにしたフィクションですが、
被害者と加害者たちそれぞれの、子供の頃からの生活なども丁寧に書かれ、
どんな環境でどんなふうに育った人たちが、この事件に関わったのかを、
とても詳しく追いかけることができます。

タイトルは「彼女は偏差値の低い大学に行ってて、すごく頭が悪いから、
東大生である自分たちが何をしてもいいのだ」という加害者側の勝手な理論に基づく。

と同時に、この事件が報道されたとき、被害者に同情する声が多かった一方で、
ネット上には「東大ブランドに踊らされたアホな女子大生が悪いのだ。
こんなことで将来を台無しにされた東大生がかわいそう」という声も多かった。
つまり被害者に対して歪んだ見方をする人たちの偏見も反映されてると思われます。

この本は、あちこちでいろんな形で取り上げられていますが、
読んだ人はどんな感想を抱くのだろうと、ネットで調べてみたりしました。

多くの人が「胸糞悪い」と書いていますが、これはこの小説が、というよりも、
事件を起こした後、みんなで口裏合わせをして自分たちを守り、
その保身の行為の間も、徹底的に被害者の女子大生を見下しバカにし続ける、
加害者たちの卑劣な言動に対しての感想なのだと思います。
ちなみに、加害者だけでなく、その親たちの多くも、同じような言動をしています。

そしてさらに、事件のあと、東大生のほうに「かわいそう」と肩入れするような発言を、
おおっぴらにではなく、匿名でネット上に残した人たちに対しても、
「胸糞悪い」ということなのでしょう。

小説そのものは、なかなかフェアに書かれていて、加害者と被害者のどちらかに
一方的に寄り添うのではなく、とても客観的で公正な気がしました。
だからこそ、この事件の本質が、きちんと伝わってくるのだと思います。

これは、あくまでも小説であり、フィクションです。
もしこれがノンフィクションだったら、ひとつの事件のルポであり、
「ああ、こんな事件があったんだね。(でも自分は関係ない、ああ、よかった)」
で終わる人も大勢いるのでしょう。

しかし、これはフィクション。物語。
だからこそ、そこには普遍的な真理が描かれるのだろうし、
読む人は、「他人事」ではなく、
自分自身の中にもひそむかもしれない問題として読むことができる。
そういう意味では、小説の力というのは、すごいものだと思います。

僕自身、やはり「胸糞悪い」と思いました。
加害者に対してはもちろんですが、
この事件を面白がり被害者の女子大生を批難し嘲笑した匿名の人々に対して。

そういう人たちにとっては、世の中というのは、
一流の学歴を持ち、世の中の上位の数パーセントに所属して、
富や力を手にする、ほんの一握りの人たちだけが「善の基準」であり、
すべてそこに合わせることが正しい。そんな感じなのかな。

「頭がいいか悪いか」という、たったひとつの価値観だけで人間と世の中を割り切る、
その単純さに、「頭の悪さ」を感じます。

でも、そういう偏見というのは、多分、大勢の人の中にあるのかもしれません。
もちろん、僕自身にも。
自分でも気づかないうちに何かの「基準」をもうけて、
それで人を分類している。「上」か、「下」か。

多分、気づかないうちに誰かを見下している。
あるいは逆に、自分を卑下し、理由のない劣等感を抱いている。

それは人間が逃れられない、悪の習慣のような気がします。
「だれもみな同じ。みんな平等」という考え方を知ってはいても、
きっとどこかで色眼鏡で見ている。そんな自分のいやらしさを考えました。

僕は何によって、何を基準にして、人を差別しているだろう。
僕の偏見は何だろう。

この本のタイトルは『彼女は頭が悪いから』ですが、
きっと僕も『彼(彼女)は〇〇〇だから』という誤った価値基準を持っています。
そう考えると、恐ろしい。

結局、人間は、つねに誰かを見下すことの快楽や、
他人から見下されることの恐怖から、逃れることはできない、
……ということなのだろうか。そのこともまた「胸糞悪い」。

そういう意味では、人間を丸裸にするような小説でした。

そう、こんな感じで、印象に残った本のことを、
ひとつひとつここに書き残していけたらいいのだけど。

ちなみに、今年の読書初めは『彼女は頭が悪いから』ではなく、
吉田知子『千年往来』です。これのことは、いずれまた。




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TheaterNautilus

Author:TheaterNautilus
シアターノーチラス代表・今村幸市によるブログです。
年に2~3回、オリジナルの脚本による芝居を上演しています。
次回公演は2018年10月です。
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