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2019-05

今、こんな旅をしたい

行く先は、日本ではほとんど知られていない南方の島国。
世界地図にも一応はのっているが小さ過ぎてたいていの人は気づかない。

近い国の空港まで飛行機で行き、あとは小さな木の船に乗せられて、
海流に乗って、粗末な桟橋だけのひっそりとした港にたどり着く。

出迎える人はいない、土産物店もない、土地の人たちが、
物珍しそうな目をしてこちらを見ているが、みんな素朴で優しそうな目だ。

海辺を歩く。海岸に下りる。舗装されていない熱い道をあてもなくさまよう。
土地の人たちが、聞いたこともない言葉で静かに会話している。

八百屋がある。魚屋がある。果物屋がある。
見たこともない虹色の果物をひとつ手にとり、日本の小銭を差し出す。
果物屋のおばさんは、うれしそうにそれを受け取り、
「おまけだ」とでもいうように、他の果物をいくつか紙袋に入れてくれる。

虹色の果物を手にとり、そのままかぶりつく。
甘い汁が口の中に広がり、指をしたたり落ちていく。
日本語で「うまい」と言うと、おばさんが笑う。
いつの間にか集まってきたおじさんたちや子供たちも笑う。

少し歩くと食堂がある。店内にも席があるが、店先のオープンテラスを選ぶ。
メニューには見たこともない文字が並んでいる。
適当に指さすと、年老いた店主は小さくうなずき、
これはサービスだというように、きれいな青い飲み物を置いていく。
それは酒ではなく果実汁でもなく、体の中がスッキリ浄化されるような飲み物。

それを飲みながら待っていると、やがて、白い皿に乗った大きな魚が届く。
たっぷりとソースがかけられスパイシーな匂いがする。

ひと口食べてみる。名前も知らない魚だが、天国のような味がする。
そんなふうにしてソースをかけられご馳走になることに幸福を感じている、
そんな魚の味だ。店主が上品なグラスに入った発泡酒を運んでくる。
魚料理の味によく合う。腹が減っていたので、夢中でたいらげる。

食べ終わり、しばらくの間、海を眺めている。波の音しかしない。
ときどき店の奥から、笑い声が聞こえる。平和な声だ。

なんだか眠りそうになったので、また日本の小銭で支払いをする。
店主はおだやかに笑いながら受け取る。なんとなく気がつく。
この島で日本の小銭が使えるはずはないのに、誰も困った顔をしないのは、
金などというものの存在理由が無いからだ。

生きるために必要な最低限のものはある。
新たに何かを買う必要もない。金というもののありがたみがわからない。
日本の小銭でなくても、葉っぱでも石ころでも、多分何でもいいのだ。

「ありがとう」という気持ちを表すものとして、彼らは差し出されたものを受け取る。
きっと、そういう流儀なのだろうと思う。

ぼくはリュックを下ろしたいので身振り手振りで「ホテルはないか?」と尋ねる。
あるはずがない、それはわかっている。でも、とりあえず尋ねる。
すると店主は、両手を大きく広げる。あたりを示す。
何が言いたいのか、すぐにわかった。「どこでも好きな場所で眠るがいい」。

ぼくはブラブラと島を一周してから、海岸に打ち捨てられた古い木の船を選ぶ。
漁をするための小舟だろう。まるで死んだ人のように、そこに放置されている。
そこをその日の宿に決める。
波の音が間近に聞こえる。それだけだ。












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TheaterNautilus

Author:TheaterNautilus
シアターノーチラス代表・今村幸市によるブログです。
年に2~3回、オリジナルの脚本による芝居を上演しています。
次回公演は2018年10月です。
http://theaternautilus.
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